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東京医科歯科大学、メッセンジャーRNA医薬を用いた脊髄損傷の新たな治療法を開発

東京医科歯科大学生体材料工学研究所生体材料機能医学分野の位髙啓史教授と Samuel Crowley 研究員、 福島雄大助教の研究グループは、ナノ医療イノベーションセンター片岡一則センター長、東京大学大学院工学 系研究科内田智士特任助教との共同研究で、新しい核酸医薬として期待される mRNA医薬を用いて、脊髄損傷後の早期神経機能回復を得ることに成功した。この研究は文部科学省科学研究費補助金、JSPS外国人特別研究員プログラム、Center of Innovationプログラムの支援のもとで行われたもので、その研究 成果は、国際科学誌 Molecular Therapy - Nucleic Acidsに、2019年6月28日にオンライン版で発表された。


【研究成果の概要】

本研究では、治療用のタンパク質として、神経保護効果を持つ脳由来神経栄養因子BDNF(※1)を用い、BDNF をコードしたmRNAを脊髄損傷モデルマウスに投与した。mRNAを脊髄組織に送達する方法として、研究グループが先行研究にて開発を進めてきたナノミセル型mRNAキャリア(※2)を活用した。 まず、mRNA搭載キャリアをマウスの正常脊髄組織に投与すると、脊髄組織でmRNA由来のタンパク質が投与後3日目をピークに明瞭に発現することが確認された。また、アストロサイト、オリゴデンドロサイトとい ったニューロンを支持する細胞群にBDNFタンパク質の発現が観察され、mRNAがこれらの細胞に広く取り込 まれ、周囲にBDNFタンパク質を分泌することが見出された(図 1)。 次いで、脊髄損傷のモデルマウスに対して、受傷直後に BDNF mRNA を損傷部位に投与した結果、無治療 群と比べて、受傷後1週から2週にかけて有意な運動機能の早期回復が得られた。また、脊髄の組織学的な解析から、脊髄損傷後の髄鞘構造が無治療群と比べて有意に高い割合で維持されており、BDNFによる神経保護効果が発揮されたことが明らかになった(図 2)。さらに、脊髄損傷部位では、免疫反応を沈静化する抑制性サイトカインIL-10産生が亢進しており、脊髄損傷によって生ずる炎症をBDNF mRNAによって沈静化できる可能性も示された。


図1 脊髄組織でのmRNAからのタンパク質発現(左図):タンパク質は3日目をピークに発現する(右上グラフ)。BDNFタンパク質(赤色)は脊髄組織に広く発現が観察される(右下図)。
図1 脊髄組織でのmRNAからのタンパク質発現(左図):タンパク質は3日目をピークに発現する(右上グラフ)。BDNFタンパク質(赤色)は脊髄組織に広く発現が観察される(右下図)。


図2 髄鞘組織の観察(上図)。髄鞘化された面積の割合(下グラフ)。
図2 髄鞘組織の観察(上図)。髄鞘化された面積の割合(下グラフ)。

※1 Brain-derived neurotrophic factor:BDNF。神経細胞の生存・成長・シナプスの機能亢進など機能調節に働く液性タンパク質。最初、脳で発見されたが、

多くの末梢組織でも産生されることが現在では確認されている。

※2 本研究グループによって開発された mRNA 送達用ナノ粒子(J Control Release 235:268-75, 2016 など)。ナノミセルとは、親水性ポリマー(ポリエチレングリコールなど)と、疎水性や電荷をコントロールした機能性ポリマー(ポリアミノ酸誘導体など)の2つの部分から成るブロック共重合体が凝集して形成されるナノ粒子で、周囲を親水性ポリマーの外郭で覆われた粒子の内部に、薬物や核酸分子を封じ込めることができる。mRNA送達用に最適化されたナノミセルを用いて、これまで脳、脊髄、関節軟骨など種々の臓器、組織に対して mRNAを安全に送達し、機能させることに成功している。



【お問い合わせ】

<研究に関すること>

東京医科歯科大学 生体材料工学研究所

生体材料機能医学学分野

位髙啓史(イタカ ケイジ)

TEL:03-5280-8088 FAX:03-5280-8088

E-mail:itaka.bif@tmd.ac.jp

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