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木津歯科 オーラル&マキシロフェイシャル ケアクリニック横浜、脂肪幹細胞による「骨増生」治療を開始


木津康博(木津歯科 理事長・総院長)
木津康博(木津歯科 理事長・総院長)

 医療法人社団 木津歯科 オーラル&マキシロフェイシャル ケアクリニック横浜は、形成外科医との医科歯科連携により、脂肪幹細胞を用いた欠損歯補綴治療(骨増生)を開始した。インプラント(人工歯根)への脂肪幹細胞の応用は国内初となる。

 本治療は、形成外科医が患者本人の腹部から脂肪を採取し、遠心分離器にかけて取り出した幹細胞を顎の骨に投与して骨増生を進め、インプラントの土台とするものである。骨盤の骨髄液から採取した幹細胞による骨増生治療に比べて、患者の肉体的負担が少なく済むなどの利点がある。1例目の治療は1月に行われ、4月12日には2例目が実施され、6月7日には

3例目が行われた。



■再生医療の中で注目を集める「幹細胞再生治療」

 病気や事故などで失った身体機能を取り戻すため、機能を失った部位の細胞・組織を再生成し、患者に移植することで機能を修復する「再生医療」は現在、世界の医学界で最も注目されている分野である。日本における研究は、iPS細胞の画期的発見(2007年)、さらには難治性疾患の克服を期待する社会の要請などを受け、オールジャパン体制のもと戦略的かつ強力に推し進められている。

 なかでも、細胞や組織を修復・再生する能力をもつ幹細胞(体性幹細胞)を患者本人から採取・抽出し、それを再び患者に投与する「幹細胞再生治療」は、拒否反応の可能性が皆無であり、きわめて信頼性・安全性の高い治療方法であるため、腹圧性尿失禁や肝硬変、強皮症、変形性膝関節症をはじめ、脳梗塞、脊髄損傷、慢性心虚血、乳房再建、毛髪再生、不妊症治療などさまざまな分野で、多くの大学・医療機関で非臨床研究や臨床研究が進められている。



■歯科における再生医療の現状と脂肪幹細胞を用いた治療への期待

 再生医療新法が2014年に施行され、歯科医療においても医科歯科連携により、全身から採取される細胞を用いた医療の実践が注目されている。骨再生の分野でも幹細胞移植が進展し、これまで骨髄幹細胞(骨髄由来間葉系幹細胞)、iPS細胞などの成果が報告されている。

 これまでの非臨床研究から、腹部にある脂肪幹細胞(脂肪組織中の間葉系幹細胞)は、低侵襲で比較的容易に採取が可能で、かつ自己複製能・増殖能が高く、液性因子も産生することが示されている。また、人工歯根であるインプラントの挿入スペースを確保するために必要な上顎洞底挙上術(じょうがくどうていきょじょうじゅつ)では、自己脂肪幹細胞(ADRCs)に代用骨を混和した場合、ADRCs群の骨密度がより高くなることが報告されている。

 人体の器官のうち、脂肪は幹細胞の密度が大きい上、人体から比較的取り出しやすく、人工骨に比べて人体への親和性も高く、治療期間も短く患者の生活の質向上につながるといった利点がある。こうした背景を受け、当クリニック総院長の木津康博らはこれまで、鶴見大学歯学部病理学講座の斎藤一郎教授とともに脂肪幹細胞を用いた基礎研究や臨床応用の検討を重ねてきた。

 幹細胞を用いた再生医療は、きわめて先進的で高度な医療であるため、厚生労働省認定の特定認定再生医療等委員会でその適合性が厳しく審査され、計画番号が付与された場合のみ可能となる。このため当クリニックでは厚生労働省の第二種再生医療等提供計画の計画番号を取得し、倫理委員会の承認を得て、国内初となる治療が今年1月、50代の男性に対して実施された。



■自己脂肪幹細胞を用いた骨増生治療の概要

 患者の主な症例は咀嚼障害で、CT検査では上顎全体に重度の骨萎縮が認められ、歯科インプラントの適用には、全顎的な骨増生術を行う必要があった。当初は腸骨移植など、多量の移植骨による骨増生も検討したが、手術侵襲が大きいことなどからADRCsを用いた細胞治療を行うことした。

 当クリニックにて、全身麻酔下で形成外科医が腹部からの吸引で脂肪組織を採取し、190gの脂肪から遠心分離器(セルーション:サイトリ・セラピューティクス株式会社)でADRCsを含む細胞懸濁液5mLを採取(細胞の生存率90.7%、生細胞数17.2×106 cells)。続いて上顎洞底挙上術を実施。ADRCsを骨補填材の成分であるβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)と混和させた移植片を用いて骨増生術を行い、上顎前歯部には同様に、骨の無機主成分である炭酸アパタイト(CO3Ap)を混和させた移植片で骨増生を行った。手術時間は約3時間15分で、術後の経過は良好である。



■脂肪幹細胞を用いた歯科治療の今後の展望

 これまで再生医療は医科が中心となって進展してきた。それだけに今回、歯科でも脂肪幹細胞を用いた骨増生を通して再生治療の成果が得られたのは“エポックメーキング”なことといえる。さらに今後、インプラントによる欠損歯補綴治療のほかにも、顎骨や粘膜欠損を伴う重度な歯周病など、さまざまな治療に脂肪幹細胞治療が有益となる可能性がある。同クリニックでは、今までにない歯科医療の実現を目指し、これからも医科歯科連携を推し進めていく。

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