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順天堂大学、白血病細胞においてKrasが、がん抑制因子として働くことを発見

順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所の岩渕和久准教授(医療看護学研究科 教授)、 横山紀子特任助教らの研究グループは、 がん遺伝子として知られるKrasの正常なKras分子ががん抑制因子として働くことを明らかにした。 急性骨髄性白血病(AML)の治癒率はいまだ低く、 副作用の少ない新規治療薬の開発が望まれている。 本成果は、 遺伝子変異してできた異常なKras分子ががん細胞の増殖を促すのに対して、 正常なKras分子の本来の働きは、 白血病細胞の細胞死を誘導する分化を促進することを発見し、 新規治療薬開発および今後の白血病克服に向けて大きな打開策を提示した。


【本研究成果のポイント】

・白血病細胞の分化にがん遺伝子と知られているKrasが関与することを発見

・正常なKras分子はWnt/β-catenin経路を介して分化を促進させることを解明

・細胞死を誘導する分化シグナルを標的にした白血病の新規治療薬開発へ


【内容】

まず、研究グループは急性骨髄性白血病細胞株のHL-60細胞をDMSO刺激により好中球系細胞へと分化誘導させる過程で正常なKras分子が活性化することを発見、 正常なKras分子を細胞からなくしたり、Krasの阻害剤を用いることでHL-60細胞の分化が抑制されることを見出した。 このことから、 正常なKras分子は骨髄系白血病の分化に関与すると考えられた。 次に、 正常なKras分子がどのように分化に関与するのかを解明するため、 動物の発生や細胞の分化にかかわるWnt/β-cateninシグナル伝達経路(※1)が、Krasによる骨髄系白血病細胞の分化に関与している可能性を考えた。 そこで、Wnt/β-catenin経路の代表的な分子であるGSK3β(※2)のリン酸化を検討したところ、 分化に伴いリン酸化が増強されることが判明し、 Wnt/β-catenin経路の関与が示唆された。 実際、細胞の分化に伴いGSK3βのリン酸化を介して、 β-cateninがそれらの働き場所である“核”に蓄積していくことを突き止めた。 さらに、β-cateninの阻害剤を用いると、 分化が抑制されることから、正常なKras分子はWnt/β-cateninシグナル経路を活性化して分化を促進させることを明らかにした。つまり、正常なKras分子はWnt/β-catenin経路を経て好中球系細胞への分化に必要な蛋白質および受容体の発現を増強し、 最終的に細胞死を誘導するHL-60 細胞の分化を促進することが明らかになった(図1)。



【用語解説】

※1 wntにより起こるシグナル経路の1つ

※2 wntシグナル伝達経路の代表的なリン酸化酵素



【お問い合わせ】

<研究内容に関するお問い合わせ>

順天堂大学大学院医療看護学研究科 医学研究科環境医学研究所   教授 岩渕和久(いわぶち かずひさ) TEL:047-353-3171 FAX:047-353-3178 E-mail: iwabuchi@juntendo.ac.jp



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